ボクは、ずっと怒ってる。
ニンゲンってやつは、
「優しさ」を美徳とする癖に、
自分の気分だけで
時折、とんでもなく相手を傷つける。
自分に関わる名誉には、
すごく敏感なのに、
それ以外の相手のことは、
非常に鈍感だったりする。
もちろん、
そんなニンゲンばかりじゃ
ないんだろうけどね。
あ。
気を悪くしたかな。
ごめんね。
ボク、
「オオイヌノフグリ」って
呼ばれてるんだけど。
どこかで会ったこと、
あるかもだよね。
僕らがつける種子がさ、
よりによって、
あのニンゲンを紐で繋いで
やって来ては、
ボクらに向かっておしっこを
引っかけて来る、
あの忌々しいイヌコロのタマタマに
似てるとかで、
性器の名前をつけられてしまった
悲運な植物だ。
名前って大事だよね？
「馬小屋で産まれた」とかっていう、
あの偉いニンゲンとやらも、
「馬男（うまお）」
なんて名前をつけられてたら、
ひねくれて、
結果的に、
尊まれなかったかも知れないと
ボクは思うね。
そしたら、
キミたちがケーキを食べて
プレゼントを贈り合う、
クリスマスなんて無かったわけだ。
「おっきなイヌのタマタマ」
こんな名前、
付けてくれない方が良かったよ。
ボクがあんまり怒るもんだから、
仲間の「イヌフグリ」くんは、
「『大きい』って付いてるだけ
立派だよ。
ボクは、ただの『イヌの睾丸』だから」
って、
変な慰め方をしてくるし、
別の仲間は、
「ボクなんか『タチイヌフグリ』だよ。
ずっと発情してるみたいな
名前じゃないだけ、
キミはまだ良い方だって」
泣き笑いするように、
囁いて来る。
ボクは、怒ってる。
怒りながら、
ボクの好きな場所に根を張って、
ボクらしく咲く。
そして、
びっくりするような大きな種を
ぶら下げる。
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本日の合言葉
「種子」